妊娠前から授乳期までの食生活について
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妊娠中に気をつけたいポイント
監修:産科婦人科舘出張佐藤病院
院長 佐藤 雄一先生
妊娠中はおなかの赤ちゃんだけではなく、お母さんの体にもさまざまな変化があらわれます。また、時期によって特に必要な栄養素やその摂取量は異なります。
ポイント1: 必要な栄養素をしっかりとりましょう
妊娠中は、お母さんと赤ちゃんの成長のために、妊娠前よりも多くの栄養素の摂取が必要になります。表1は厚生労働省が定めた「日本人の食事摂取基準」です。18~29歳、30~49歳女性の妊娠前と妊娠中・授乳期にとるべき栄養素の量を成分別に示していますが、エネルギー量をはじめ、多くの栄養素をプラスしなければならないことがおわかりいただけるでしょう。
表1 妊娠中に必要な栄養素と追加摂取量の目安
18-29歳女性 | 30-49歳女性 | 妊娠中 | 授乳中 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
エネルギー(身体活動レベル:ふつう) | ||||||||
kcal/日 | 必要量 | 2,000 | 2,050 | 初期+50※1 中期+250※1 後期+450※1 |
+350 | |||
たんぱく質 | ||||||||
g/日 | 推奨量 | 50 | 50 | 初期+0 中期+5 後期+25 |
+20 | |||
脂質 | ||||||||
脂質 | %エネルギー | 目標量 | 20~30 | 20~30 | 20~30 | 20~30 | ||
飽和脂肪酸 | %エネルギー | 目標量 | 7以下 | 7以下 | 7以下 | 7以下 | ||
n-6系脂肪酸 | g/日 | 目安量 | 8 | 8 | 9 | 10 | ||
n-3系脂肪酸 | g/日 | 目安量 | 1.6 | 1.6 | 1.6 | 1.8 | ||
炭水化物 | ||||||||
炭水化物 | %エネルギー | 目標量 | 50~65 | 50~65 | 50~65 | 50~65 | ||
食物繊維 | g/日 | 目標量 | 18以上 | 18以上 | 18以上 | 18以上 | ||
ビタミン | ||||||||
脂溶性 | ビタミンA※2 | μgRAE/日 | 推奨量 | 650 | 700 | 初期・中期+0 後期+80 |
+450 | |
ビタミンD | μg/日 | 目安量 | 8.5 | 8.5 | 8.5 | 8.5 | ||
ビタミンE※3 | mg/日 | 目安量 | 5.0 | 5.5 | 6.5 | 7.0 | ||
ビタミンK | μg/日 | 目安量 | 150 | 150 | 150 | 150 | ||
水溶性 | ビタミンB1 | mg/日 | 推奨量 | 1.1 | 1.1 | +0.2 | +0.2 | |
ビタミンB2 | mg/日 | 推奨量 | 1.2 | 1.2 | +0.3 | +0.6 | ||
ナイアシン | mgNE/日 | 推奨量 | 11 | 12 | +0 | +3 | ||
ビタミンB6 | mg/日 | 推奨量 | 1.1 | 1.1 | +0.2 | +0.3 | ||
ビタミンB12 | μg/日 | 推奨量 | 2.4 | 2.4 | +0.4 | +0.8 | ||
葉酸※4,5 | μg/日 | 推奨量 | 240 | 240 | +240 | +100 | ||
パントテン酸 | mg/日 | 目安量 | 5 | 5 | 5 | 6 | ||
ビオチン | μg/日 | 目安量 | 50 | 50 | 50 | 50 | ||
ビタミンC | mg/日 | 推奨量 | 100 | 100 | +10 | +45 | ||
ミネラル | ||||||||
多量 | ナトリウム | mg/日 | 必要量 | 600 | 600 | 600 | 600 | |
(食塩相当量) | g/日 | 必要量 | 1.5 | 1.5 | 1.5 | 1.5 | ||
カリウム | mg/日 | 目標量 | 2,600以上 | 2,600以上 | 2,600以上 | 2,600以上 | ||
カルシウム | mg/日 | 推奨量 | 650 | 650 | +0 | +0 | ||
マグネシウム | mg/日 | 推奨量 | 290 | 270 | +40 | +0 | ||
リン | mg/日 | 目安量 | 800 | 800 | 800 | 800 | ||
微量 | 鉄 | mg/日 | 推奨量 | 10.5 | 10.5 | 初期+2.5 中期・後期+9.5 |
+2.5 | |
亜鉛 | mg/日 | 推奨量 | 8 | 8 | +2 | +4 | ||
銅 | mg/日 | 推奨量 | 0.7 | 0.7 | +0.1 | +0.6 | ||
マンガン | mg/日 | 目安量 | 3.5 | 3.5 | 3.5 | 3.5 | ||
ヨウ素※6 | μg/日 | 推奨量 | 130 | 130 | +110 | +140 | ||
セレン | μg/日 | 推奨量 | 25 | 25 | +5 | +20 | ||
クロム | μg/日 | 目安量 | 10 | 10 | 10 | 10 | ||
モリブデン | μg/日 | 推奨量 | 25 | 25 | +0 | +3 |
※1 妊婦個々の体格や妊娠中の体重増加量及び胎児の発育状況の評価を行うことが必要である。
※2 プロビタミンAカロテノイドを含む。
※3 α-トコフェロールについて算定した。α-トコフェロール以外のビタミンEは含んでいない。
※4 妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性及び妊娠初期の妊婦は、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために、通常の食品以外の食品に含まれる葉酸(狭義の葉酸)を400μg/日摂取することが望まれる。
※5 付加量は中期及び後期にのみ設定した。
※6 妊婦及び授乳婦の耐容上限量は、2,000μg/日とした。
厚生労働省: 日本人の食事摂取基準(2020年版)
より作成
<コラム:妊娠中に気をつけたい食材>
- ・レバー:ビタミンAが多く含まれています。ビタミンAは過剰摂取により先天性異常が増加することが報告されているため、妊娠3ヵ月以内の人は大量の摂取を避けましょう。
- ・魚介類:魚介類には赤ちゃんの発育に欠かせないたんぱく質やビタミン・ミネラル、不飽和脂肪酸が豊富に含まれている一方、水銀が比較的多いものがあり、食べすぎには注意が必要です。マグロの仲間やキンメダイなどの魚は週1回程度にとどめておくといいでしょう。
- ・刺身、生ハム、スモークサーモンやナチュラルチーズなど加熱していない食品:リステリア菌という食中毒菌が増殖している可能性があります。妊娠中は免疫力の低下によって感染しやすいうえ、赤ちゃんに影響が出ることがあるため、食べる量を控えたり、鮮度のよいものを選んだりするようにしましょう。
ポイント2: 妊娠前の体格にあった体重管理を
妊娠中は胎児の成長に伴い、体重が増加します。しかし増加量は一律ではなく、妊娠前の体型やBMIからその目安が示されています。低体重児(出生時体重2,500g未満)や巨大児(出生時体重4,000g以上)で生まれた赤ちゃんは、それぞれに健康リスクが指摘されており、妊娠中の適切な体重管理が求められます。(図1)
図1 妊娠中の体重増加の目安
※「増加量を厳格に指導する根拠は必ずしも十分ではないと認識し、個人差を考慮したゆるやかな指導を心がける.」
産婦人科診療ガイドライン産科編2020 CQ010 より
厚生労働省: 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針
~妊娠前から、健康なからだづくりを~ 解説要領(令和3年3月)
ポイント3: 腸内環境を整えて免疫力アップを
一般女性と妊娠中の女性の便秘症状に関するアンケート調査では、およそ77%の妊婦さんが便秘症状を感じているという結果でした(図2)。これは、妊娠中に継続的に分泌される黄体ホルモンの影響で腸の動きが抑えられたり、子宮が大きくなることで腸が圧迫され、便が停滞しやすくなったりすることが原因とされています。便秘による排便習慣の乱れは、不快な症状だけでなく免疫力の低下に繋がります。腸内には体内の免疫細胞のおよそ60%が存在するとされており、便が長時間腸内に留まる結果、腸内環境が悪化し、細菌やウイルスなどに感染するリスクが高まることが指摘されています。便秘気味の方はもちろん、そうでない方も食生活の工夫で腸内環境を整えるよう心がけましょう。
図2 一般女性と妊娠中の女性の便秘症状に関するアンケート調査※
※直近1ヵ月間の便秘症状の有無に関する回答
対象・方法:
妊娠中の便秘症状について調査するため、株式会社インテージヘルスケアのインターネットモニター全国20~45歳女性をスクリーニング対象とし、WEB調査を行った。本調査回収数2,266例のうち、現在妊娠中の女性が548例、比較対象として一般女性妊娠中の女性を含む可能性あり)が521例であった。
自社調べ: 富士製薬工業株式会社
アンケート実施機関: 株式会社インテージヘルスケア
腸内環境を整えるといえば、ヨーグルトや乳酸菌飲料をすぐに思い浮かべる方が少なくないでしょう。確かにプロバイオティクスと呼ばれるこれらの食品は、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌を含み、排便習慣の改善をはじめ、さまざまな健康効果が期待できる食品として広く知られています。しかしながら、善玉菌に活躍してもらううえでは、その栄養源となるプレバイオティクスという成分を一緒に摂取する必要があります(図3)。善玉菌の成長を促し、さらには大腸菌のような悪玉菌の増殖を抑える働きがある食材としては、食物繊維やオリゴ糖がその代表格といえるでしょう。中でも近年注目されているのがケストースという素材です。
図3 プロバイオティクスとプレバイオティクス
"プロバイオティクス"は、お腹の調子を
整えるなど、健康に有益な働きをする微生物や
それらを含む食品のこと。
<例>ヨーグルト、納豆、糠漬けなど
"プレバイオティクス"は、腸内の善玉菌の栄養源となる
食品成分のこと。
<例>食物繊維、オリゴ糖、ケストースなど
<コラム:ご存じですか? ケストース>
ケストースはオリゴ糖の一種で、バナナやかぼちゃ、玉ねぎといった身近な食材にも含まれている安全な成分です。胃や腸で分解されずに大腸まで届くという特長を持っていることから、腸内環境に有益な働きをもたらすとの研究成果が報告されています。以下のグラフはケストース2gを2週間摂取した際のデータです。
対象・方法:
日常便秘傾向にある女子学生11例(年齢23±1歳)のボランティアに、1-ケストース2gを1日1回夕食後に2週間摂取させ、排便状況の調査と便の菌叢分析を行った。便中の菌数の変化については、被験者から同時期に便を採取することが困難であったため、6例の平均値を算出した。
福森 保則 他: 精糖技術研究会誌. 2004; 52: 13-18. より作成
物産フードサイエンス株式会社社内資料
ケストースは便通改善、ビフィズス菌の増殖、悪玉菌の減少といった腸内環境の改善以外にも、乳幼児アトピー性皮膚炎や小児のアレルギー性鼻炎の改善、IgA(免疫グロブリン)の増加に関する研究報告があり、免疫機能への関与が期待されています。また肌の水分量向上といった美容面の働きも明らかになっています。
妊娠中は免疫機能が低下し、細菌やウイルスへの抵抗力が弱くなっています。規則正しい生活で睡眠時間を確保しストレスをためないようにすること、栄養バランスに加え、腸内環境にも配慮してプロバイオティクス、プレバイオティクスを上手にとり入れるといった工夫で、免疫力の維持に努めてください。
ポイント4: 妊娠中は禁煙・禁酒です
妊娠中の喫煙、受動喫煙、飲酒は、妊娠合併症や胎児、乳児の発育に影響します。禁煙、禁酒に努めましょう。周りの人の協力も必要です。
ポイント5:カフェインのとりすぎに注意
海外では妊婦さんのカフェインのとりすぎが出生時の低体重、将来の健康リスクを高める可能性があるとして、コーヒーの飲みすぎに注意喚起をしている国もあります。日本では妊婦さんのカフェイン摂取量について設定されていませんが、1日1~2杯程度であれば問題ないでしょう。気になる方はノンカフェインのものを選択するのも一つの方法です。
ポイント6: 無理のない範囲で体を動かしましょう
妊娠による体調や生活習慣の変化で、運動習慣がおろそかになる人は少なくないでしょう。しかしウォーキングや妊婦さんを対象としたヨガ、水泳といった軽い運動は、妊娠期間を健やかにすごすうえでさまざまなメリットがあると考えられています。医師とも相談のうえ、体調が安定する妊娠中期頃から自分にあった運動で無理なく体を動かしましょう。
ポイント7: 必要に応じて栄養補助食品を活用しましょう
妊娠中はバランスのよい食生活を送ることが重要ですが、つわりなどの影響で食事からの栄養が十分にとれない場合があります。また三度の食事で常に主食、主菜、副菜を揃えるのは難しいと感じる方も少なくないでしょう。食生活がストレスにならないよう自分の体調や食習慣を振り返り、必要な栄養素がとれていないと感じる時には、医師などの専門家に相談したうえで、適切にサプリメントなどを活用して栄養バランスを整えることをおすすめします。