妊娠前から授乳期までの食生活について 妊娠前から授乳期までの食生活について

若い女性の食生活の現状と妊娠への影響

監修:産科婦人科舘出張佐藤病院
院長 佐藤 雄一先生

バランスのよい食事をとれている20~30代の女性は少ない

みなさんは毎日、主食、主菜、副菜の3つをそろえて食べていますか? 忙しい生活を送る若い女性にとって、バランスのよい食生活を心がける意識はあっても、それを実践することは難しいかもしれません。図1は、1日に2回以上、主食、主菜、副菜を組み合わせた食事をとる日が、週に何日あるかを聞いた調査結果です。女性の結果を世代別に見てみると、栄養バランスを考えた食事をとっている日がほとんどない、もしくは、週に2~3日の人は20代で58.8%、30代で50.7%と他の年代に比べて多く、若い世代を中心に栄養バランスのよい食事をとれていないことが分かります。



図1 栄養バランスに配慮した食生活を送っている人の割合(女性)

栄養バランスに配慮した食生活を送っている人の割合(女性)

農林水産省: 食育に関する意識調査報告書(令和5年3月)

加えて、若い女性のやせ志向の高まりから、20代女性の約20%がBMI18.5未満の「やせ」に該当するというデータがあります(図2)。これは必要なエネルギーを摂取できていないこと、具体的には主食としてエネルギー源となる穀類の摂取量が年々減少しているためと考えられます。事実、国が定めた20代女性の1日の推定エネルギー必要量2,000kcalに対し、実際の平均エネルギー摂取量は2002年以降1,600kcal台で推移しており、栄養不足による健康への悪影響が危惧されます。

BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)


図2 やせの者(BMI<18.5 kg/m2 )の割合 の推移(2010~2019年)

やせの者(BMI<18.5 kg/m2 )の割合 の推移(2010~2019年)

厚生労働省: 国民健康・栄養調査結果

今の食生活ややせすぎ体型が将来の妊娠、子どもの健康に影響する

スリムな体型で流行の服を着こなしたいと願う若い女性は少なくないでしょう。しかし、栄養バランスの偏った食生活ややせすぎは将来の妊娠に悪影響を及ぼすとされています。例えば胎児の先天性異常の一つである「神経管閉鎖障害」は、妊娠初期の葉酸というビタミンの不足が原因とされていますし、やせすぎの女性は早産や低体重児(出生時体重2,500g未満)といった出産時のリスクを高めることが報告されています。図3は低出生体重児の割合を示したグラフです。2,500g未満で生まれる赤ちゃんの割合は1980年には5.2%程でしたが、その後増加を続け2005年以降は9.5%前後で推移していることがわかります。この数値はOECD(経済協力開発機構)に加盟する35カ国の平均値と比較しても高い割合となっています。



図3 低出生体重児(2,500g未満児)の割合

低出生体重児(2,500g未満児)の割合

「小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査」研究会:
低出生体重児 保健指導マニュアル(平成31年3月)



低出生体重児は出生後にも医療的なケアを要する場合が多いうえ、成人後の肥満や循環器疾患、2型糖尿病といった生活習慣病、発育・発達の遅延や障害のリスクが高い傾向にあることが指摘されています。このように胎児期の栄養状態や出生早期の環境が子どもの将来の健康に影響を及ぼすという概念は、「DOHaD(ドーハッド:生活習慣病胎児期発症起源説)」とよばれ注目されています。日本は諸外国に比べ低出生体重児の割合が多いという近年の現状を受け、厚生労働省は妊娠前からの食生活の重要性に関する啓発活動に着手しています。


DOHaD(生活習慣病胎児期発症起源説)

いますぐの妊娠、出産を考えていなくても、早くから健康的な食生活を意識し、実践することは、将来望んだタイミングで健康な妊娠、出産を実現させるだけでなく、生まれてくる子どもの将来にわたる疾病リスクとも深くかかわっている点を認識しておきましょう。

関連情報