妊娠前から授乳期までの食生活について 若い女性の食生活の現状と妊娠への影響

妊娠前から気をつけたい食生活

監修:産科婦人科舘出張佐藤病院
院長 佐藤 雄一先生

妊娠前から意識したい「バランスのよい食事」

バランスのよい食事は、主食、主菜、副菜がそろっていることが一つの目安です。主食とは活動するためのエネルギー源で、炭水化物を多く含むごはん、パン、麺、パスタなどの料理です。主菜は肉や魚、卵、大豆製品など、筋肉や血液、毛髪や皮膚といった体をつくるたんぱく質を多く含むメインのおかずです。副菜はビタミン、ミネラル、食物繊維などを含む野菜やきのこ、海藻類を使い、主食、主菜では摂取できない栄養を供給する料理のことをいいます(図1)。このような献立を実践すれば、三大栄養素といわれるたんぱく質、脂質、炭水化物がバランスよく摂取できるだけでなく、体の調子を整えるうえで欠かせないビタミンやミネラル、食物繊維なども同時にとれるというメリットがあります。



図1 バランスのよい食事とは

バランスのよい食事とは

しかし、外食やインスタント食品、ファストフードなどを食べる機会の多い若い女性においては、主食、主菜、副菜の揃った食事を毎日とっている人は3割に満たない(若い女性の食生活の現状と妊娠への影響_図1)のが現状です。また妊娠・授乳期は妊娠前よりも多くのエネルギーや栄養成分が必要となるため、3度の食事で足りない場合には間食や栄養補助食品、サプリメントなどもとり入れながら、自分にあった方法で無理なく続けるようにしたいものです。

特に不足しがちな鉄分と葉酸

はじめに、若い女性の食生活の現状についてご説明しましたが、妊娠に向けた食生活としてはエネルギー以外にも、ビタミン、ミネラルが十分にとれていないとの報告があります。そこで将来の妊娠に備え普段から特に意識してとりたい栄養素を図2にまとめました。



図2 妊娠に備えてしっかりとりたい栄養素

妊娠に備えてしっかりとりたい栄養素

妊娠前からとっておくべきビタミン、ミネラルは多岐にわたるとともに、さまざまな食材に含まれています。中でも鉄分と葉酸は妊娠に深くかかわる栄養素とされますが、毎日の食事から十分に補給することが難しく若い女性を中心に不足傾向が指摘されています。


  • ・鉄分
    酸素を全身に運ぶ赤血球の生成に必要なミネラルです。妊娠中は胎盤を通して赤ちゃんに鉄分を供給するので、妊娠中の女性は貧血を予防するためにもしっかり摂取することが重要です。


    表1 鉄分の推奨量と摂取量(通常時)

    鉄分

    20代女性 30代女性
    推奨量 10.5mg/日 10.5mg/日
    実際の摂取量 6.2mg/日 6.4mg/日
    鉄分の推奨量と摂取量(通常時)

    厚生労働省: 国民健康・栄養調査結果の概要(令和元年)
    厚生労働省: 日本人の食事摂取基準(2020年版)

  • ・葉酸
    ビタミンB群の一種で、赤血球やDNA、細胞の産生と深くかかわっている成分です。胎児の正常な発育に不可欠な栄養素とされており、特に妊娠初期に発症する「神経管閉鎖障害」という先天性異常のリスクを減らす働きが認められていることから、妊娠前からの摂取が推奨されています。


    表2 葉酸の推奨量と摂取量(通常時)

    葉酸

    20代女性 30代女性
    推奨量 240ug/日 240ug/日
    実際の摂取量 226ug/日 233ug/日
    葉酸の推奨量と摂取量(通常時)

    厚生労働省: 国民健康・栄養調査結果の概要(令和元年)
    厚生労働省: 日本人の食事摂取基準(2020年版)

習慣化した食生活を急に変えるのは難しいかもしれません。妊娠前から、副菜でたっぷりと野菜をとることを意識し、ビタミン、ミネラルをとる習慣を身につけておきましょう。

<コラム:神経管閉鎖障害とは>

受胎後28日頃からでき始める脳や脊髄などの中枢神経の元となる神経管の一部が塞がらないことによる先天性異常です。神経管の塞がらない箇所により無脳症や二分脊椎(脊髄髄膜瘤を含む)などが発症します。


  • 無脳症
    正常な脳がつくられない。多くが流産・死産となる。
  • 二分脊椎(脊髄髄膜瘤を含む)
    腰やお尻の上の皮膚や骨が閉じきれず、脳から続く脊髄神経が開いたまま体の表に出ている状態。歩行障害や排泄機能の障害がおこる。


妊娠前からの十分な葉酸摂取により、神経管閉鎖障害のリスクを減らせることが数多くの研究で明らかになっています。

【二分脊椎(脊髄髄膜瘤)】

二分脊椎(脊髄髄膜瘤)

食事でとりきれない葉酸はサプリメントで

神経管閉鎖障害の発症リスクを減らすために、厚生労働省は妊娠計画時から妊娠3ヵ月まで1日あたり640μgの葉酸摂取を推奨しています。これは通常時の240μgに400μgを追加した量(図3)となりますが、食品に含まれる葉酸は体内での利用率が低く、食事だけで十分な葉酸を毎日とり続けるのは簡単なことではありません。一方、サプリメントに含まれる葉酸は体内での利用率が比較的高いという特長を持っているため、付加分の葉酸を手軽に摂取できる有効な手段とされています。



図3 1日に必要な葉酸摂取量

1日に必要な葉酸摂取量

厚生労働省: 日本人の食事摂取基準(2020年版)
文部科学省: 日本食品標準成分表2020年版(八訂)

血液の循環を支える赤血球の産生に欠かせない葉酸は、妊娠中期以降から授乳期を通じて通常時よりも多くの量が必要となる栄養素です。また水溶性ビタミンである葉酸は使われなかった分が尿と一緒に排泄されるため、体内に貯めておくことはできません。妊娠前からサプリメントなどを活用し、毎日十分な量を摂取する習慣を身につけることをおすすめします。



参考:はじめませんか? プレコンセプションケア

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