7つの中核主題に対する取り組み 7つの中核主題に対する取り組み

TCFD提言への賛同

富士製薬工業株式会社(以下、当社)は2022年12月20日開催しました取締役会において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)※1の提言への賛同を表明することを決議しました。当社は気候変動に真摯に向き合い、事業に影響する機会・リスクへの理解を深め、TCFD提言に基づく気候変動関連の積極的な情報開示に努めてまいります。

※1 Task Force on Climate-related Financial Disclosures:2015年に金融安定理事会(FSB)により設立された、気候変動が事業に与えるリスクと機会の財務的影響に関する情報開示を企業に推奨する国際的イニシアチブ。

TCFD

TCFD提言が推奨する情報開示項目

TCFD提言は、気候変動に伴うリスクと機会が財務を含む会社経営にどのような影響を及ぼすかを的確に把握すべく、4つの開示要素である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」に沿って情報開示することを推奨しています。当社は、TCFD提言が求める4つの情報開示項目に基づいた情報開示の更なる拡充に取り組んでまいります。

i. ガバナンス

当社は、サステナビリティを中期経営計画の戦略の一つとして位置付け、気候変動・環境への対応を経営上の重要課題と認識しています。その諸課題については、TCFD推進事務局がリスク管理委員会、サステナビリティ委員会および環境委員会と連携し、各委員会の分掌にしたがって、気候変動関連リスクと機会、業務執行への影響について協議し、代表取締役社長に報告します。取締役会は原則として気候変動に関するリスク管理の状況と対応について代表取締役社長より報告を受け、全社的な経営に係る施策について決議し、監督をします。
代表取締役社長は、気候変動・環境への対応の諸課題の審議や決定に関し、最終的な責任を負っています。

TCFD推進体制
TCFD推進体制における会議体および役割
組織・会議体 役割
取締役会 代表取締役社長より少なくとも年に1回、リスク管理委員会の定例報告の一環として、気候変動に関するリスク管理の状況と対応について報告を受け、全社的な経営に係る施策について決議し、監督。 
代表取締役社長  TCFD推進事務局と連携の上、各委員会より気候変動関連の取り組み状況について報告を受け、取締役会にてリスク管理委員会より報告させる。気候関連のリスクと機会の評価と管理の両方に対する責任を負う。 
経営執行会議  社長の諮問機関として、諮問事項について答申を行う。月2回開催。
リスク
管理委員会
気候変動リスクや機会を四半期に1回取りまとめ、対応策を検討。リスクで重要と判断された項目について、リスク管理規程に基づき対応し常勤監査役の監査のもと、取締役会宛の定例報告の一環として、気候変動に関するリスク管理の状況と対応について少なくとも年に1回報告する。
サステナビリティ
委員会 
社長を委員長とする委員会にて四半期に1回サステナビリティ活動全般について協議する。協議事項には気候変動関連の取り組みなど環境対応が含まれる。
環境委員会  富山エリアにおけるエネルギー効率化等の環境対応を実施。また、ISO14001の管理運営も担う。
TCFD
推進事務局
経営管理部 総務課TCFD担当者が、リスク管理主管部門である経営管理部長、ガバナンスおよびサステナビリティ主管部門である経営企画部長をオブザーバーとする事務局にて、各委員会、部門と連携し気候変動の取組みを推進。
ii. 戦略

当社では、TCFD提言に基づき、気候変動関連のリスク・機会の把握を目的にシナリオ分析を開始しました。シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)等の科学的根拠等に基づき1.5℃シナリオと4℃シナリオを定義し、2030年時点で事業に影響を及ぼす可能性がある気候関連のリスクと機会の重要性を評価しました。これらのリスクと機会について、今後社内での議論を深め、適時適切に開示してまいります。
分析対象範囲:国内主要事業(女性医療、バイオシミラー、造影剤)

シナリオ群の定義
設定シナリオ 1.5℃シナリオ 4℃シナリオ
世界観 日本政府により炭素税の導入等、厳しい気候変動対策が推進され、抜本的な社会変革が起こり、プラスチック規制や気候変動関連情報開示への対応が求められる。
一方で、洪水・浸水等、自然災害の被害は限定的なものに留まる。
政府による、現行を上回る気候対策は実施されず、気候変動対応は求められない。
一方で、気温上昇の影響による渇水、洪水などの異常気象が顕在化し、拠点が被災、対応コストや被災時の回復費用が見込まれる。
参照シナリオ IEA The Net-Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)/ IEA World Energy Outlook 2021/ IEA World Energy Outlook 2018/ IPCC AR6 SSP1-1.9 IEA World Energy Outlook 2021/ IEA World Energy Outlook 2018/ IPCC AR6 SSP5-8.5
特徴 政策などに関連する移行リスクが顕在化しやすい。 異常気象などに関連する物理リスクが顕在化しやすい。
リスク機会一覧

当社は気候変動に関連する様々なリスク・機会について、関係各部署の協力を得てリストアップし、検討してまいりました。認識したリスク・機会のうち、事業への影響度が「中」以上のものを以下に記載しております。

影響度
大:当社への影響が非常に大きい
中:当社への影響はあるが限定的
小:当社への影響はほとんどない

・リスク
リスクの種類 リスク・機会の内容 事業及び財務への影響
(財務影響、億円)
1.5℃ 4℃
移行リスク 政策・
法規制
炭素税導入により税負担が増加するリスク
(-2.58)
-
脱炭素関連の政策・法規制強化に対応するための設備導入
(再エネや高効率設備など)やリプレイスなどによる設備投資コストの増加
-
プラスチック規制により再生プラスチックを使用することによりコスト増
(-6.85)
-
技術 気候変動により需要増加が見込まれる薬品の開発、提供ができない場合、競合他社に市場を奪われるリスク
資源循環に関する法規制により、環境負荷の低い素材を使用した容器開発に対応できないリスク
市場 化石燃料の需要増により製造コスト増加(プラスチック包装) -
(-22.82)*1
炭素税の導入や引き上げによる製造関連エネルギーや調達品のコスト増加 -
評判 気候変動対策への遅れによる外部評価の低下とそれに伴う株価の低下
異常気象に伴う輸送の遅延や品質低下による顧客評判の低下
気候変動対応への遅れを起因とする医薬品製造受託事業の機会損失
物理リスク 急性 大雨、洪水、台風などの異常気象の深刻化・増加により、当社事業所・工場やサプライチェーンが被害を受け、
コスト上昇や事業活動の中断リスク
(事業所や工場の修復費用、原料調達・配送などの配送遅延など)

(最大-106.5)*2

(最大-106.5)*2
慢性 海面上昇により井戸水の元となる淡水に海水が流れ込み、淡水の入手が困難になる可能性
極端な高温による労働環境悪化、気候変動に起因して発症が増加する病気による従業員の生産性低下、欠勤率増加
気温上昇によるエネルギー使用量の増加、エネルギー効率利用のための対策費増加
気候変動により降雪量が少なくなれば地下水が減少し井戸水が使えず
工業用水(上水道)を利用することとなりコスト上昇、
さらには上水道を製造用水に使用するために追加の投資・コストがかかる。
海外での干ばつによる水不足のため、原料の調達が困難になる可能性(中国、ヨーロッパ等)
・機会
機会の
種類
リスク・機会の内容 事業及び
財務への影響
(財務影響、億円)
1.5℃ 4℃
製品と
サービス
医療機関や消費者のサステナビリティ指向の増加により、サステナビリティの取り組みをしている企業の製品が選ばれやすくなる可能性
市場 気候変動により増加が懸念される疾患や気候変化による新たな市場の創出
コスト
低下
(4℃シナリオ)エネルギーミックスの変化により、電力価格が低下し、製造コスト低下 -
0.24
(1.5℃シナリオ)脱炭素の機運により化石燃料の需要が低下し、LPGの価格が低下することで、製造コストが低下 -

*1 原油価格変動の項目に関して、国際情勢は加味せず、気候変動のみを要因とした価格変動を考慮し算定しています。
*2 一回富山工場が被災した場合の最大の影響金額を算出しています。

財務影響金
・特に重要なリスクへの対応について

影響度評価の結果、特に重要と判断したリスクに対して対応を進めています。

項目 事業インパクト 対応策
物理リスク 工場の浸水による売上減少・資産(在庫)価値の減少 リスク管理委員会が水害対応マニュアルを作成しており、水害発生時に、従業員等の生命・身体の安全確保、被害拡大防止、状況把握を目的に実施する非日常的な応急対応、平常時における準備/訓練などの活動について定めています。
防水設備設置については水害発生の危険個所を確認すると共に、水の敷地内への侵入を最小限とするよう、事前に対策を講じていきます。
川の水嵩が増す前又は降雨前に安全を確認の上、止水板、タイガーダム、水嚢を設置します。
評判リスク 異常気象に伴う輸送の遅延や品質低下による顧客評判の低下 物流拠点を分散化することで異常気象が発生した場合にも安定して製品を届けられるよう対応しております。
物理リスク 中国、ヨーロッパ等での干ばつリスクにより、水不足が発生し原薬製造が困難となり、原薬調達が困難になる可能性 重点製品の在庫積み増し、原材料メーカーの一部多重化を行っています。
物理リスク 海面上昇により井戸水の元となる淡水に海水が流れ込み/降雪量が少なくなれば地下水が減少し、地下水が使えなくなり、上水道を使用する場合、コスト上昇 リスクが生じた場合に迅速な対応ができるよう、モニタリングを行っていきます。
iii. リスク管理

当社は全社的なリスク管理規定に基づき、気候変動リスクへのリスク管理を実施しています。 気候変動に関するリスクは、TCFD推進事務局が各委員会や事業部門と連携しながら識別します。識別されたリスクはリスク管理委員会による評価及び対応策の検討後、各部門や関連会社によるリスク対応が行なわれます。また、気候変動リスクに関する対応状況はリスク管理委員会によって取りまとめられ、代表取締役社長へ報告されます。取締役会は、代表取締役社長より気候変動に関するリスク管理の状況と対応について報告を受け、監督します。

リスク管理プロセス
iv. 指標と目標

当社は、気候変動関連リスク機会の評価指標として、温室効果ガス排出量の算定を行なっております。2021年度はScope1にあたる「燃料の使用(CO2)」とScope2にあたる「他人から供給された電気の使用(CO2)」を、2022年度はScope3にあたる「その他の間接排出量(CO2)」を算定対象としています。
当社は2030年までに富山工場の電力使用量の50%を再生可能エネルギーへ切り替え、2050年のカーボンニュートラル を目指し、継続的な温室効果ガス排出量の把握、富山工場の省エネや太陽光発電システムの導入等の削減施策に取り組んでまいります。

温室効果ガス排出量
排出量(tCO2) 2021年度 2022年度
Scope1 5,261 6,044
Scope2 7,253 8,153
Scope3 - 292,361
合計 12,514 306,558

算定期間:
2021年度:2020年10月~2021年9月
2022年度:2021年10月~2022年9月
開示対象:国内全事業
Scope1・2で使用した排出係数:
電力会社やメニューごとの排出係数を用いる算定方法であるマーケット基準を採用しております。

v. 今後の取り組み

今回の開示は、当社によるTCFDの提言への賛同の表明と、現時点での取り組み状況です。今後、当社では、より具体的なリスクと機会への対応策を議論してまいります。また、現時点でリストアップしている項目以外のリスクと機会についても継続的に検証してまいります。これらの活動については、適時適切に開示してまいります。これらの活動および開示を通じたステークホルダーとの対話を通じて、気候関連のリスクの低減やマーケットの変化に応じた事業機会の獲得に努め、企業の持続的成長につなげてまいります。